らしく、妹のそこにあることを意《こころ》にかけぬらしく、ぽっと上気したような顔をして言ったことがあったくらいであった。
お島はそれが癪《しゃく》にさわったといって、後で鶴さんと大喧嘩《おおげんか》をしたほどであった。
三十四
鶴さんは、その当座外で酒など飲んで来た晩などには、時々お島が自分のところへ来るまでの、長い歳月の間のことを、根掘葉掘して聴くことに興味を感じた。結婚届まですましてあったお島と作太郎との関係についての鶴さんの疑いは、お島が説明して聴《きか》す作太郎の様子などで、その時はそれで釈《と》けるのであったが、その疑いは護謨毬《ゴムまり》のように、時が経つと、また旧《もと》に復《かえ》った。
「嘘《うそ》だと思うなら、まあ一度私の養家へ往ってごらんなさい。へえ、あんな奴がと思うくらいですよ。そうね、何といって可《い》いでしょう……」お島は身顫《みぶるい》が出るような様子をして、その男のことを話した。
「嫌う嫌わないは別問題さ。左《と》に右《かく》結婚したと云うのは事実だろう」
「だから、それが親達の勝手でそうしたんですよ。そんな届がしてあろうとは、私は夢にも
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