いるようであった。鶴さんは、それはそれとして大事に秘めておいて、自身の生活の単なる手助《てだすけ》として、自分を迎えたのでしかないように思えた。駢《なら》んで電車に乗ってからも、お島はそんなことを思っていた。
三十一
奉公人などに酷だというので、植源いこうか茨《ばら》脊負《しょ》うか、という語《ことば》と共に、界隈《かいわい》では古くから名前の響いたその植源は、お島の生家《さと》などとは違って、可也《かなり》派手な暮しをしていたが、今は有名な喧《やかま》し屋《や》の女隠居も年取ったので、家風はいくらか弛《ゆる》んでいた。お島は一二度ここへ来たことはあったが、奥へ入ってみるのは、今日が初めであった。
大秀の娘である嫁のおゆうが、鶴さんの口にはゆうちゃんと呼れて、小僧時代からの昵《なじ》みであることが、お島には何となし不快な感を与えたが、それもしみじみ顔を見るのは、初めてであった。
おゆうは、浮気ものだということを、お島は姉から聞いていたが、逢ってみると、芸事の稽古《けいこ》などをした故《せい》か、嫻《しとや》かな落着いた女で、生際《はえぎわ》の富士形になった額が狭く、
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