《かみ》さんの義理の弟――先代の妾《めかけ》とも婢《はした》とも知れないような或女に出来た子供――のいる四谷の方へもお島は顔出しをしなければならないように言われていたが、それはもう商売上の用事で、二度も尋ねて来たりして、大概その様子がわかっていたが、鶴さんはそのお袋が気に喰《く》わぬといって、後廻しにすることにした。
お島はこの頃|漸《ようや》く落着いて来た丸髷に、赤いのは、道具の大きい較《やや》強味《きつみ》のある顔に移りが悪いというので、オレンジがかった色の手絡《てがら》をかけて、こってりと濃い白粉《おしろい》にいくらか荒性《あれしょう》の皮膚を塗《ぬり》つぶして、首だけ出来あがったところで、何を着て行こうかと思惑っていた。
鶴さんは傍で、髷の型の大きすぎたり、化粧の野暮くさいのに、当惑そうな顔をしていたが、着物の柄《がら》も、鶴さんの気に入るような落着いたのは見当らなかった。
「かねのを少し出してごらん。お前に似合うのがあるかも知れない」
鶴さんはそう言って、押入の用箪笥のなかから、じゃらじゃら鍵《かぎ》を取出して、そこへ投出《ほうりだ》した。
「でも初めていくのに、そんな
前へ
次へ
全286ページ中79ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング