のかかった事をも零《こぼ》した。先代の時から続いてやっている、確な人に委せて、監督させてある北海道の方へも、東京での販路拡張の手隙《てすき》には、年に一度くらいは行ってみなければならぬことも話して聞かせた。そういう[#「そういう」は底本では「さういう」と旧仮名遣い、56−9]時には、お島は店を預かって、しっかり遣《や》ってくれなければならぬと云うので、多少そんなことに経験と技量のあるように聞いているお島に、望みを措《お》いているらしかった。
部屋などの取片着《とりかたづけ》をしているうちに、翌日一日は直《じき》に経ってしまった。お島は時々|細《こまか》い格子《こうし》のはまった二階の窓から、往来を眺めたり、向いの化粧品屋や下駄屋や莫大小屋《メリヤスや》の店を見たりしていたが、檻《おり》のような窮屈な二階に竦《すく》んでばかりもいられなかった。それで階下《した》へおりてみると、下は立込んだ廂《ひさし》の差交《さしかわ》したあいだから、やっと微《かす》かな日影が茶《ちゃ》の室《ま》の方へ洩《も》れているばかりで、そこにも荷物が沢山入れてあった。店には厚司《あつし》を着た若いものなどが、帳
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