どんな顔してるか一度見にいってやりましょうよ」お島は面白そうに笑ったが、何かにつけ、それを引合いに自分を悪く言う母親などから、そんな女と一つに見られるのが腹立しかった。

     二十九

 結婚の翌日、新郎の鶴さんは朝早くから起出して、店で小僧と一緒に働いていた。昨夜|極《ごく》親しい少数の人たちを呼んで、二人が手軽な祝言《しゅうげん》をすました手狭な二階の部屋には、まだ新郎の礼服がしまわれずにあったり、新婦の紋附や長襦袢《ながじゅばん》が、屏風《びょうぶ》の蔭に畳みかけたまま重ねられてあったりした。蓬莱《ほうらい》を飾った床の間には、色々の祝物が秩序もなくおかれてあった。
 客がみなお開きになってからも、それだけは新調したらしい黒羽二重の紋附をぬぐ間がなく、新郎の鶴さんは二度も店へ出て、戸締や何かを見まわったりしていたが、いつの間にか誰が延べたともしれぬ寝床の側に坐っているお島の側へ戻って来ると、いきなり自分の商売上のことや、財産の話を花嫁に為《し》て聞せたりした。そして病院へ入れたり、海辺へやったりして手を尽して来た、前《せん》の上《かみ》さんの病気の療治に骨の折れたことや、金
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