だよ」姉は肥りきったお島の顔を眺めながら揶揄《からか》ったが、男のいい鶴さんを旦那《だんな》に持つことになったお島の果報に嫉妬《しっと》を持っていることが、お島に感づかれた。死んだ上《かみ》さんの衣裳《いしょう》が、そっくりそのまま二階の箪笥に二棹《ふたさお》もあると云うことも、姉には可羨《うらやま》しかった。
結納の取換《とりかわ》せがすんで、目録が座敷の床の間に恭《うやうや》しく飾られるまでは、お島は天性《もちまえ》の反抗心から、傍《はた》で強《し》いつけようとしているようなこの縁談について、結婚を目の前に控えている多くの女のように、素直な満足と喜悦《よろこび》に和《やわら》ぎ浸ることができずに、暗い日蔭へ入っていくような不安を感じていた。養家にいた今までの周囲の人達に対する矜《ほこり》を傷つけられるようなのも、肩身が狭かった。作太郎に嫁が来たと云う噂《うわさ》が、年のうちに此方《こっち》へも伝っていた。お島はそのことを、糧秣《りょうまつ》問屋の爺さんからも聞いたし、その土地の知合の人からも話された。その嫁はお島も知っている、男に似合いの近在の百姓家の娘であった。
「あの馬鹿が、
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