三日、気が狂ったような心持で、有らん限りの力を振絞って、母親と闘って来た自分が、不思議なように考えられた。時々顔を上げて、彼女は太息《といき》を洩《もら》した。道が人気の絶えた薄暗い木立際《こだちぎわ》へ入ったり、線路ぞいの高い土堤《どて》の上へ出たりした。底にはレールがきらきらと光って、虫が芝生に途断《とぎ》れ途断れに啼立《なきた》っていた。青柳がいなければ、お島はそこに疲れた体を投出して、独《ひとり》で何時までも心の限り泣いていたいとも考えた。
けれどお島は、長く青柳と一緒に歩いてもいなかった。松の下に、墓石や石地蔵などのちらほら立った丘のあたりへ来たとき、先刻《さっき》からお島が微《かすか》な予感に怯《おび》えていた青柳の気紛《きまぐ》れな思附が、到頭彼女の目の前に、実となって現われた。
「ちょッ……笑談《じょうだん》でしょう」
道傍《みちばた》に立竦《たちすく》んだお島は、悪戯《いたずら》な男の手を振払って、笑いながら、さっさと歩きだした。
甘い言《ことば》をかけながら、青柳はしばらく一緒に歩いた。
「御母さんに叱られますよ」お島は軽《かろ》くあしらいながら歩いた。
「現
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