《き》きの口から、父親の耳へも入っていた。それらの人の話によると、安心して世帯《しょたい》を譲りかねるような挙動《ふるまい》がお島に少くなかった。金遣いの荒いことや、気前の好過ぎることなどもその一つであった。おとらと青柳との秘密を、養父に言告《いいつ》けて、内輪揉めをさせるというのもその一つであったが、総てを引括《ひっくる》めて、養家に辛抱しようと云う堅い決心がないと云うのが、養父等のお島に対する不満であるらしかった。
「だから言わんこっちゃない。稚《ちいさ》い時分から私が黒い目でちゃんと睨《にら》んでおいたんだ。此方から出なくたって、先じゃ疾《とう》の昔に愛相《あいそ》をつかしているのだよ」母親はまた意地張《いじっぱり》なお島の幼《ちいさ》い時分のことを言出して、まだ娘に愛着を持とうとしている未練げな父親を詛《のろ》った。
「こんなやくざものに、五万十万と云う身上《しんしょう》を渡すような莫迦《ばか》が、どこの世界にあるものか」
 太《ふ》てていて、飯にも出て来ようとしないお島を、妹や弟の前で口汚く嘲《あざけ》るのが、この場合母親に取って、自分に隠して長いあいだお島を庇護《かばい》だ
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