に倚《よっ》かかって、組んだ手のうえに面《おもて》を伏せていた。疳癪《かんしゃく》まぎれに頭顱《あたま》を振たくったとみえて、綺麗《きれい》に結った島田髷の根が、がっくりとなっていた。お島は酒くさい熱い息がほっと、自分の顔へ通《かよ》って来るのを感じたが、同時に作の手が、脇明《わきあき》のところへ触れて来た。
「何をするんだよ」お島はいきなり振顧《ふりかえ》ると、平手でぴしゃりとその顔を打《ぶ》った。
「おお痛《いて》え。えれえ見脈《けんまく》だな」作は頬《ほお》っぺたを抑えながら、怨《うら》めしそうにお島の顔を眺めていた。
髪結が来て、顔を直してくれてから、お島が再び座敷へ出て行った頃には、席はもう乱れ放題に乱れていた。お島はぐでぐでに酔っている青柳に引張られて、作の側へ引すえられたが、父親や養父の姿はもう其処には見えなかった。作は四五人の若いものに取囲まれて、連《しきり》に酒を強《し》いられていたが、その目は見据《みすわ》って、あんぐりした口や、ぐたりとした躯《からだ》が、他哩《たわい》がなかった。
二十三
その夜の黎明《ひきあけ》に、お島が酔潰《えいつぶ》れた作
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