ったような気がした。そしてじっと俛《うつむ》いていると、体がぞくぞくして来て為方《しかた》がなかった。
「どうだい島ちゃん、こうして並んでみると万更でもないだろう」青柳が一二杯|猪口《ちょこ》をあけた時分に、前屈《まえこご》みになって舐《な》めるような調子で、私《そっ》とお島の方へ声をかけた。
 吸物椀にぎごちない箸をつけていた作は、「えへへ」と笑っていた。
 お島は年取った人達のすることや言うことが、可恐《おそろ》しいような気がしていたが、作の物を貪《むさぼ》り食っている様子が神経に触れて来ると、胸がむかむかして、体中が顫《ふる》えるようであった。旋《やが》てふらふらと其処を起《た》ったお島の顔は真蒼《まっさお》であった。
 二三人の人が、ばらばらと後を追って来たとき、お島は自分の部屋で、夢中で着物をぬいでいた。

     二十二

 追かけて来た人達は、色々にいってお島をなだめたが、お島は箪笥《たんす》をはめ込んである押入の前に直《ぴった》り喰着《くっつ》いたなりで、身動きもしなかった。
「これあ為様がない」幾度手を引張っても出て来ぬお島の剛情に惘《あき》れて、青柳が出ていったあ
前へ 次へ
全286ページ中59ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング