となどを憶出《おもいだ》していた。そして旅費さえ偸《ぬす》み出すことができれば、何時でもその男を頼って、外国へ渡って行けそうな気さえするのであった。
「ここまで漕《こ》ぎつけて、今一ト息と云うところで、あの財産を放抛《うっちゃ》って出るなんて、そんな奴があるものか」
お島がその希望をほのめかすと、西田の老人は頭からそれを排斥した。この老人の話によると、養家の財産は、お島などの不断考えているよりは、※[#「※」は「しんにょう+向」、第3水準1−92−55、40−6]《はるか》に大きいものであった。動産不動産を合せて、十万より凹《へこ》むことはなかろうと云うのであった。床下の弗函《ドルばこ》に収《しま》ってあると云う有金だけでも、少い額ではなかろうと云うのであった。その中には幾分例の小判もあろうという推測も、強《あなが》ち嘘《うそ》ではなかろうと思われた。
小《こまか》い子供を多勢持っているこのお爺さんも、旧《もと》は矢張《やっぱり》お島の養父から、資金の融通を仰いだ仲間の一人《いちにん》であった。今でも未償却のままになっている額が、少くなかった。老人は、何をおいても先《まず》、慾を知
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