めるように言って、そろそろ煙管を仕舞いはじめた。
 お島を頷《うなず》かせるまでには、大分手間がとれたが、帰るとなると、お島は自分の関係が分明《はっきり》わかって来たようなこの家を出るのに、何の未練気もなかった。
「どうも済みません。色々御心配をかけました」お島はそう言って挨拶をしながら、おとらについて出た。
 そして何時にかわらぬ威勢のいい調子で、気爽《きさく》におとらと話を交えた。
「男前が好くないからったって、そう嫌ったもんでもないんだがね」
 おとらは途々《みちみち》お島に話しかけたが、左《と》に右《かく》作の事はこれきり一切口にしないという約束が取極《とりき》められた。

     十七

 おとらは途《みち》で知合の人に行逢うと、きっとお島が、生家の母親の病気を見舞いにいった体《てい》に吹聴していたが、お島にもその心算《つもり》でいるようにと言含めた。
「作太郎にも余りつんけんしない方がいいよ。あれだってお前、為《す》ることは鈍間《のろま》でも、人間は好いものだよ。それにあの若さで、女買い一つするじゃなし、お前をお嫁にすることとばかり思って、ああやって働いているんだから。あ
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