田舎へ稼《かせ》ぎにいっている兄の傍には、暫く係合《かかりあ》っていた商売人《くろうと》あがりの女が未だに附絡《つきまと》っていたり、嫂《あによめ》が三つになる子供と一緒に、東京にあるその実家へ引取られていたりした。父親の助けになる男片《おとこきれ》と云っては、十六になるお島の弟が一人家にいるきりであった。
家が段々ばたばたになりかかっていると云うことが、そうして五日も六日も見ているお島の心に感ぜられて来た。母親のやきもきしている様子も、見えすいていた。
十六
お島は父親が内へ入ってからも、暫く裏の植木畑のあたりを逍遥《ぶらつ》いていた。どうせここにいても、母親と毎日々々|啀《いが》みあっていなければならない。啀み合えば合うほど、自分の反抗心と、憎悪の念とが募って行くばかりである。長いあいだ忘れていた自分の子供の時分に受けた母親の仕打が、心に熟《う》み靡《ただ》れてゆくばかりである。一万二万と弟や妹の分前はあっても、自分には一握《ひとつかみ》の土さえないことを思うと頼りなかった。それかと言って、養家へ帰れば、寄って集《たか》って急度《きっと》作と結婚しろと責められるに
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