図《さしず》して、可也大きな赤松を一株《ひともと》、或得意先へ持運ぶべく根拵《ねごしら》えをしていた。
お島はおとらを客座敷の方へ案内すると、直《じき》に席をはずして了ったが、実母の吩咐《いいつけ》で父親を呼びに行った。お島はこうして邪慳《じゃけん》な実母の傍へ来ていると、小さい時分から自分を可愛《かわい》がって育ててくれた養母の方に、多くの可懐《なつか》しみのあることが分明《はっきり》感ぜられて来た。養家や長い馴染《なじみ》のその周囲も恋しかった。
「島ちゃん、お前さんそう幾日も幾日もこちらの御厄介になっていても済まないじゃないか。今日は私がつれに来ましたよ」おとらにいきなりそう言って上り込んで来られた時、お島は反抗する張合がぬけたような気がして、何だか涙ぐましくなって来た。
「手前の躾《しつけ》がわりいから、あんな我儘《わがまま》を言うんだ。この先もあることだから放抛《うっちゃ》っておけと、宅ではそう言って怒っているんですけれど、私もかかり子《ご》にしようと思えばこそ、今日まで面倒を見てきたあの子ですからね」
おとらのそう言っている挨拶《あいさつ》を茶の間で茶をいれながら、お島
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