った。
それが小心な養父には、気に入らなかった。時々お島は養父から小言を言われた。
「可《い》いじゃありませんか阿父《おとっ》さん、家の身上《しんしょう》をへらすような気遣《きづかい》はありませんよ」お島は煩《うる》さそうに言った。
「阿父さんのように吝々《けちけち》していたんじゃ、手広い商売は出来やしませんよ」
ぱっぱっとするお島の遣口《やりくち》に、不安を懐《いだ》きながらも、気無性《きぶしょう》な養父は、お島の働きぶりを調法がらずにはいられなかった。
「嘘ですよ」
お島は作と自分との結婚を否認した。
「それでも作さんがそう言っていましたぜ」取引先の或人は、そう言って面白そうにお島の顔を瞶《みつ》めた。
「あの莫迦の言うことが、信用できるもんですか」お島は鼻で笑っていた。
王子の方にある生家へ逃げて帰るまでに、お島の周囲には、その噂が到るところに拡がっていた。
「それじゃお前は、どんな男が望みなのだえ」おとらは終《しまい》にお島に訊ねた。
「そうですね」お島はいつもの調子で答えた。
「私はあんな愚図々々した人は大嫌いです。些《ちっ》とは何か大きい仕事でもしそうな人が好きです
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