の一室に泊って、翌《あく》る日《ひ》は、町のはずれにある菩提所《ぼだいしょ》へ墓まいりに行った。その寺は、松や杉などの深い木立のなかにある坂路のうえにあった。
 松風の音の寂しい山門を出てからも、お島はまだ墓の下にあるものの執着の喘《あえ》ぎが、耳につくような無気味さを感じた。彼女は急いで道をあるいた。
 半日を浜屋で暮して、十二時頃お島はまた汽車に乗った。
「どこか温泉で二三日遊んでいこう」
 失望の安易に弛《ゆる》んだ彼女は、汽車のなかでそうも考えた。

     百十三

 途中汽車を乗替えたり、電車に乗ったりして、お島はその日の昼少し過ぎに、遠い山のなかの或温泉場に着いた。
 浴客はまだ何処にも輻湊《ふくそう》していなかったし、途々《みちみち》見える貸別荘の門なども大方は閉《しま》っていて、松が六月の陽炎《ようえん》に蒼々《あおあお》と繁り、道ぞいの流れの向うに裾をひいている山には濃い青嵐《せいらん》が煙《けぶ》ってみえた。
 お島の導かれたのは、ある古い家建《やだち》の見晴《みはらし》のいい二階の一室であったが、女中に浴衣《ゆかた》に着替えさせられたり、建物のどん底にあるよう
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