、まだ時々|店頭《みせさき》へ来て暴れたり呶鳴《どな》ったりする狂女が、巣鴨《すがも》の病院へ送込まれてから、お島はやっと思出の多いその山へ旅立つことができた。
全く色情狂に陥ったその女は、小野田が姿を見せなくなってからは、一層心が狂っていた。そして近所の普請場から鉋屑《かんなくず》や木屑をを拾い集めて来て、お島の家の裏手から火をかけようとさえするところを、見つけられたりした。
近所の人だちの願出《ねがいいで》によって、警察へ引張られた彼女が、梁《はり》から逆さにつられて、目口へ水を浴せられたりするところを、お島も一度は傍で見せつけられた。
「水をかけられても、目をつぶらないところを見ると、これは確《たしか》に狂気《きちがい》です」
責道具などの懸けられてあるその室で、お島は係の警官から、笑いながらそんな事を言われた。
「私は二三日で帰って来ますからね、留守をお頼み申しますよ」
お島は立つ前の晩にも、その職人に好きな酒を飲ませたり、小遣《こづかい》をくれたりして頼んだ。
「多分それまでに帰ってくるようなことはないだろうと思うけれど、偶然《ひょっ》として良人《うち》が帰って来たら
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