、巧《うま》い工合に話しておいて下さいよ。前《せん》に縁づいていた人のお墓参りに行ったとそう言ってね」
お島は顔を赧《あか》らめながら言った。
「可《よ》ござんすとも。ゆっくり行っておいでなさいまし」
その男はそう言って潔《きよ》く引受けたが、胡散《うさん》な目をして笑っていた。
「真実《ほんとう》にわたし恁《こ》ういう人があるんです」
お島は終《しま》いにそれを言出さずにはいられなかった。
「けどこれだけはあの人には秘密ですよ」
百十一
博覧会時分に上京して来た、山の人たちに威張って逢えるだけの身のまわりを拵《こしら》えて、お島があわただしい思いで上野から出発したのは、六月の初めであった。
四五年前に、兄に唆《そその》かされて行った頃の暗い悲しい心持などは、今度の旅行には見られなかったが、秘密な歓楽の果《み》をでも偸《ぬす》みに行くような不安が、汽車に乗ってからも、時々彼女の頭脳《あたま》を曇らした。
汽車の通って行く平野のどこを眺めても、昔《むか》しの記憶は浮ばなかった。大宮だとか高崎だとかいうような、大きなステーションへ入るごとに、彼女は窓から首を出して
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