やった。
 女はにやにやと笑って、金を眺めていたが、投げつけるようにしてそれを押戻した。
「わたしお金なんか貰いに来たのじゃなくてよ。私を旦那に逢わしてください」
 女はそこを逐攘《おっぱら》われると、外へ出ていつまでもぶつぶつ言っていた。そして男の帰って来るのを待っているか何ぞのように其処《そこ》らをうろうろしていた。
「そっちに言分があれば、此方《こっち》にだって言分がありますよ」
 亭主から頼まれたと云って、四十|左右《そう》の遊人風の男が、押込んで来たとき、お島はそう言って応対した。そして話が込入って来たときに、彼女の口から洩れた、伯父の名が、その男を全くその談《はなし》から手を引かしめてしまった。顔利《かおきき》であった伯父の名が、世話になったことのあるその男を反対に彼女の味方にして了《しま》うことができた。

     百九

 親思いの小野田が、田舎ではまだ物珍しがられる蓄音器などをさげて、根津の店が失敗したおりに逐返《おいかえ》したきりになっている、父親を悦《よろこ》ばせに行った頃には、彼が留守になっても差閊《さしつか》えぬだけの、裁《たち》の上手な若い男などが来ていた
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