たときには、彼女の鬢《びん》がばらばらに紊《ほつ》れていた。そうして二人は暫く甘い疲労に浸りながら、黙って壁の隅っこに向きあって坐っていた。
百七
二人が階下《した》へおりていったのは、もう電燈の来る時分であった。病院通いをするようになってから、可恐《おそろ》しいものに触れるような気がして、絶えて良人《おっと》の側へ寄らなかった彼女は、その時も二人の肉体に同じような失望を感じながら、そこを離れたのであった。
「あなたは別に女をもって下さい」
お島はそう言って、根津にいた頃近所の上さんに勧められて、小野田が時々逢ったことのある女をでも、小野田に取戻そうかとさえ考えていた。
「そうでもしなければ、とてもこの商売はやって行けない」お島はそうも考えた。
産れが好いとかいわれていたその女は、ここへ引越してからも、一二度|店頭《みせさき》へ訪ねて来たことがあったが、お島はそれの始末をつけるために、砲兵|工廠《こうしょう》の方へ通っている或男を見つけて、二人を夫婦にしてやったのであった。
小野田がどうかすると、その女のことを思い出して、裏店住《うらだなずま》いをしている、戸崎町
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