》をして、ずんどのなかへ花を挿《さ》しているのを、お島は見かけた。
 もと人の妾などをしていたと云う不幸なその女は、どうかすると二時間も三時間も遊んで帰ることがあった。上方《かみがた》に近い優しい口の利き方などをして、名古屋育ちの小野田とはうま[#「うま」に傍点]が合っていた。
「私だって偶《たま》には逆様《さかさ》にお花も活《い》けてみとうございますよ」
 外から帰って、ふと二階の梯子《はしご》をあがって行くお島の耳に、その日も午《ひる》から来て話込んでいたその年増《としま》の媚《なま》めかしい笑い声が洩《も》れ聞えた。嫉妬《しっと》と挑発とが、彼女の心に発作的におこって来た。
 女が帰って行くとき、お島はいきなり帳場の方から顔を出して行った。
「お気毒《きのどく》さまですがね、宅《たく》はお花なんか習っている隙《ひま》はないんですから、今日きり私《わたくし》からお断りいたします」
 お島は硬《こわ》ばった神経を、強《し》いておさえるようにして、そう言いながら謝礼金の包を前においた。
 もう三十七八ともみえる女は、その時も綺麗に小皺《こじわ》の寄った荒《すさ》んだ顔に薄化粧などをして
前へ 次へ
全286ページ中267ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング