で町を疾走するときの自分の姿に憧《あこが》れているようなお島は、それを考える余裕すらなかった。
「少しくらい体を傷《いた》めたって、介意《かま》うもんですか。私たちは何か異《かわ》ったことをしなければ、とても女で売出せやしませんよ」
 お島はそう言って、またハンドルに掴まった。
 朝はやく、彼女は独《ひとり》でそこへ乗出して行くほど、手があがって来た。そして濛靄《もや》の顔にかかるような木蔭を、そっちこっち乗りまわした。秋らしい風が裾に孕《はら》んで、草の実が淡青く白《しろ》い地《じ》についた。崖のうえの垣根から、書生や女たちの、不思議そうに覗《のぞ》いている顔が見えたりした。土堤《どて》の小径《こみち》から、子供たちの投げる小石が、草のなかに落ちたりした。
「おそろしい疲れるもんですね」
 一月《ひとつき》ほどの練習をつんでから、初めて銀座の方へ材料の仕入に出かけて行って、帰って来たお島は、自転車を店頭《みせさき》へ引入れると、がっかりしたような顔をして、そこに立っていた。
「須田町から先は、自分ながら可怕《おっかな》くて為様《しよう》がなかったの。だけど訳はない。二三度乗まわせば急
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