の姿を想像するだけでも、彼女は不思議な興味を唆《そそ》られた。
「そうすると、お前の顔は直きに学生仲間に広まってしまうよ」
 小野田はその妻や娘を売物にすることを能《よ》く知っている、思附のある興行師か何ぞのような自分の計劃《けいかく》で、成功と虚栄に渇《かわ》いている彼女を使嗾《しそう》する術を得たかのように、自信のある目を輝かしていた。
「ふむ」お島は自分がいつからかぼんやり望んでいたことを、小野田が探りあててくれたような興味を感じた。男が頼もしい悧巧《りこう》もののように思えて来た。
「それは確《たしか》にあたるね」お島はそういって賛成した。

     百二

 横浜に店を出している知合いの女唐服屋で、お島が工面した金で自分の身装《みなり》をすっかり拵《こしら》えて来たのは、それから大分たってからであった。
 新築の家はすっかり出来あがって、硝子もはまった飾窓に、小野田が柳原から見つけて買って来た古い大礼服の金モオルなどが光っていた。
 一度姿見を買ったことのある硝子屋では、主人はその申込を最初は断ったが、お島のことを知っている息子《むすこ》が、自分で引受けて要《い》るだけの硝
前へ 次へ
全286ページ中256ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング