「それよりか硝子の工面もしなければならず、店だって飾なしにおかれやしない」
「知らないよ、私は。自分でもちっと心配するがいいんだ」お島は言返した。
百一
小野田はそこへ脱ぎっぱなしにしたお島の汗ばんだ襦袢《じゅばん》や帯が目に入ったり、不断著を取出すために引掻《ひっかき》まわした押入のどさくさした様子などを見ると、とても世帯は持てない女だといって、自分のために離縁を勧めた父親の辞《ことば》が思い出された。
「技倆《はたらき》があるか何だか知らんが、まあ大変なもんだ。とても女とは思えんの」
そうも言って、荒いお島の調子に驚いていた父親の善良そうな顔も思出された。
「朝から出て、あれは一日どこを何をして歩いてるだい」
父親はそうも言って、不思議がったが、お島自身に言わせると、朝は誰かが台所働きをしてくれて、気持よく家を出なければ、とても調子よく外で働くことはできないというのであった。帰って来た時にも、自分を迎えてくれる衆《みんな》の好い顔をでも見なければ埋らないと言うのであった。それで小野田は順吉と一緒に、どうかすると七輪に火をおこしたり、漬物桶《つけものおけ》へ手を
前へ
次へ
全286ページ中254ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング