あった。
 お島はその日も、新しい店を持った吹聴かたがた、朝から顧客《とくい》まわりをして、三時頃にやっと帰って来たが、夏場はどこでも註文がなくて、代りに一つ二つの直しものを受取ったきりであった。
 外は黄熟《おうじゅく》した八月の暑熱が、じりじり大地に滲透《しみとお》るようであった。蝉《せみ》の声などのまだ木蔭に涼しく聞かれる頃に、家を出ていった彼女は、行く先々で、取るべき金の当がはずれたり、主《あるじ》が旅行中であったりした。古くからの昵《なじ》みの家では、彼女は病気をしている子供のために、氷を取替えたり、団扇《うちわ》で煽《あお》いだりして、三時間も人々に代って看護をしていたりして、目がくらくらするほど空腹を感じて来た頃に、家へ帰って来たのであった。
 家では大工がみんな昼寝をしていた。小野田もミシン台をすえた奥の六畳の涼しい窓の下で、横わっていた。
 お島はそこらをがたぴし言わせて、着替などをしていた。根津の家を引払う前に、田舎へ還してしまった父親の毎日々々飲みつづけた酒代の、したたか滞っている酒屋の註文聞の一人に、途中で出逢って、自分の方からその男に声をかけて来なければならな
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