少い額ではないらしかった。この一二年青柳の生活が、いくらか華美になって来たのが、お島にも目についた。養父の知らないような少額の金や品物が、始終養母の手から私《そっ》と供給されていた。
 お島はその年の冬の頃、一度青柳と一緒に落会った養母のお伴をしたことがあったが、十七になるお島を連出すことはおとらにも漸《ようや》く憚《はばか》られて来た。場所も以前のお茶屋ではなかった。
 その日も養父は、使い道の分明《はっきり》しないような金のことについて、昼頃からおとらとの間に紛紜《いざこざ》を惹起《ひきおこ》していた。長いあいだ不問に附して来た、青柳への貸のことが、ふとその時彼の口から言出された。そして日頃|肚《はら》に保《も》っていた色々の場合のおとらの挙動《ふるまい》が、ねちねちした調子で詰《なじ》られるのであった。
 結局おとらは、綺麗に財産を半分わけにして、別れようと言出した。そして良人の傍を離れると、奥の間へ入って、暫《しばら》く用箪笥《ようだんす》の抽斗《ひきだし》の音などをさせていたが、それきり出ていった。
「まあ阿母《おっか》さん、そんなに御立腹なさらないで、後生ですから家にいて下
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