やって来たが、それらの人々が宿を引揚げて行ってからも、浜屋の主人だけは、お島の世話で部屋借をしていた家から、一月の余《よ》も病院へ通っていた。
 田舎では大した金持ででもあるように、お島が小野田に吹聴しておいた山の客が、どやどややって来たとき――浜屋だけは加わっていなかったが――お島は水菓子にビールなどをぬいて、暑い二階で彼等を※[#「※」は「疑」の左側+欠」第3水準1−86−31、178−8]待《もてな》したが、小野田も彼等から、商売の資本でも引出し得るかのように言っているお島の言《ことば》を信じて、そこへ出て叮嚀《ていねい》な取扱い方をしていた。
 お島はその一人からは夏のインバネス、他の一人からは冬の鳶《とんび》と云う風に、孰《いずれ》も上等品の註文を取ることに抜目がなかったが、いつでも見本を持って行きさえすれば、山の町でも好い顧客《とくい》を沢山世話するような話をも、精米所の主人が為ていた。
「私がこの旦那方に、どのくらいお世話になったか知れないんです」
 お島はそう言って小野田にも話したが、そこにお島の身のうえについて、何か色っぽい挿話《そうわ》がありそうに、感の鈍い小野田に
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