しょう」
「莫迦なことを言って下さるなよ。妾なんかおく身上《しんしょう》じゃありませんよ」
お島は腹立しそうに言った。
九十一
五六箇月の間に、そこの仮店《かりみせ》で夫婦が稼ぎ得た収入が二千円近くもあったところから、狭苦しい三畳にもいられなかった二人が、根津の方へ店を張ることになってからも、外の活動に一層の興味を感じて来たお島は、時々その事について、親しい友達に秘密な自分の疑いを質《ただ》しなどしたが、それをどうすることもできずに、忙しいその日その日を紛らされていた。
生理的の不権衡《ふけんこう》から来るらしい圧迫と、失望とを感ずるごとに、お島は鶴さんや浜屋のことが、心に蘇《よみが》えって来るのを感じた。
「成功したら、一度山へ行ってあの人にも逢ってみたい」
そんな秘密の願が、気忙《きぜわ》しい顧客《とくい》まわりに歩いている時の彼女の心に、どうかすると、或異常な歓楽でも期待され得るように思い浮かんだりした。一つは、妾になら為《し》ておこうといったことのある、その男への復讐心《ふくしゅうしん》から来る興味もあったが、現在の自分等夫婦には、欠けているらしい或要求と
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