はないんですね」
「早くあの地面を自分のものに書きかえておくようにしなくちゃ駄目だよ」
 小野田は、お島の投遣《なげやり》なのを牾《もどか》しそうに言った。
「あの地面も、今はどうなっているんだか。あの御母《おっか》さんの生きているうちは、まあ私の手にはわたらないね」
「それもお前が下手だからだよ」
 小野田はそう言いながら、望みありげに家へ入って来た。

     八十九

 小野田がこの家に信用を得るために、母親の傍に坐って、話込んでいるあいだ、お島は擽《くすぐ》ったいような、いらいらしい気持を紛らせようとして、そこを離れて、子供を揶揄《からか》ったり、嫂《あによめ》と高声《たかごえ》で話したりしていた。
「家じゃ島が一番親に世話をやかせるんでございますよ。これまでに、幾度《いくたび》家を出たり入ったりしたか知れやしません」
 母親はお島が傍についているときも、そんな事を小野田に言って聴《きか》せていたが、彼女の目には、これまでお島が干係《かんけい》した男のなかで、小野田が一番頼もしい男のように見えた。取澄してさえいれば、口髭《くちひげ》などに威のある彼のがっしりした相貌《そうぼう
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