にいた千葉の方から帰って来ていた。一時|生家《さと》へ還っていた嫁も、その子供をつれて、久振で良人《おっと》と一緒に暮していた。兄は一時悪い病に罹《かか》ってから、めっきり健康が衰え、お島と山で世帯を持っていた頃の元気もなくなっていた。お島はあの頃の山の生活と、二三度そこで交際《つきあ》った兄の情婦《おんな》の身のうえなどを想い出させられた。悪い病気にかかったというその情婦は、どこへ行っても兄に附絡《つきまと》われていて、好いこともなくて旅で死んでしまった。その時は、何の気もなしに傍観していた二人の情交《なか》や心持が、お島にはいくらか解るように思えて来たが、どこが好くて、あの女がそんなに男のために苦労したかが訝《いぶ》かられた。
「あの時は、兄さんはほんとに私をひどい目に逢わしたね」
 お島は長いあいだの経過を考えて、何の温かみも感ずることのできない恣《ほしいま》まな兄との接触に、失望したように言出した。
 兄はその頃のことは想い出しもしないような顔をしていた。お島たちの寄ついて来ることを、余り悦んでもいないらしかった。
「あれはああ云う男です。人が悪いっていうんでもないけれど、人情
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