「私があの人に何を言うもんですか」お島は顔をしかめて煩《うるさ》そうに応答《うけごたえ》をしていたが、出る先へ立って、細《こまか》い話をして聞かす気にもなれなかった。
「それどころか、私はこの店のために随分働いてやっているじゃありませんか」
「でも何か言ったろう」
「煩《うるさ》いよ」お島は眉《まゆ》をぴりぴりさせて、「お前さんのように、私はあんなものにへっこらへっこらしてなんかいられやしないんだよ」
「だがそうは行かないよ。お前がその調子でやるから衝突するんだ」
「ふむ。私よりかお前さんの方が、余程《よっぽど》間抜なんだ。だから川西なんかに莫迦《ばか》にされるんです。もっとしっかりするが可《い》いんだ」
 それで二人は半日ほど捜しあるいて、漸《やっ》と見つけた愛宕《あたご》の方の或る印判屋の奥の三畳|一室《ひとま》を借りることに取決め、持合せていた少《すこし》ばかりの金で、そこへ引移ったのであった。
 そこは見附《みつき》の好い小綺麗《こぎれい》な店屋であった。お島はその足で直ぐ、差当り小野田の手を遊ばさないように、仕事を引出しに心当りを捜しに出たが、早速仕事に取かかるべく少しばか
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