厭に滅入って寂しく見えた。浜屋や鶴さんのことが、物悲しげに想い出されたりした。
 その晩、小野田は二階でしばらく川西と何やら言合っていたが、やがて落着のない顔をして降りて来ると、店にいるお島の傍へ寄って来た。
「店が閑《ひま》でとても置ききれないから、気の毒だけれど、己たちに今から出てくれというんだがね」
 小野田は言出した。
「ふむ」お島はまだ神経が突っ張っていて、こまこました話をする気にはなれなかった。
「己《おれ》たちが自分の仕事をするので、それも気に加《くわ》んらしい」
「どうせそうだろうよ」お島は荒い調子で冷笑《あざわら》った。
「出ましょう出ましょう。言われなくたって、此方《こっち》から出ようと思っていたところだ」

     八十五

 翌日朝|夙《はや》くから、お島はぐずぐずしている小野田を急立《せきた》てて家を捜しに出た。
「また何かお前が大将の気に障《さわ》ることでも言ったんじゃないか」
 小野田は昨夜《ゆうべ》も自分たちの寝室《ねま》にしている茶《ちゃ》の室《ま》で、二人きりになった時、そう言ってお島を詰《なじ》ったのであったが、今朝もやっぱりそれを気にしていた。
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