、そこに暫く足を停《と》めているうちに、ついつい引かかって了ったのであった。
二人が月島の店を引払った頃には、三月《みつき》ほどかかって案じ出した木村の新案ものも、古くから出ているものに類似品があったり、特許出願の入費がなかったりしたために、孰《どれ》もこれも持腐れになってしまったのに落胆《がっかり》して、又渡り職人の仲間へ陥《お》ちて行っていた。
南の方の海に程近いN――市では二人は少しばかり持っている著替《きがえ》などの入った貧しい行李《こうり》を、小野田の妹の家で釈《と》くことになったが、町には小野田の以前の知合も少くなかった。
主人が勤人であった妹の家の二階に二三日寝泊りしていた二人は、そこから二里ばかり隔たった村落にいる小野田の父親に遭《あ》って、そこから出発するはずであったが、以前住んでいた家や田畑も人の手に渡って、貧しい百姓家の暮しをしている父親の様子を、一度行って見て来た小野田は、見すぼらしげな父親をお島に逢わせるのが心に憚《はばか》られた。東京に住つけた彼の目には、久しく見なかった惨《みじ》めな父親の生活が、自分にすら厭《いと》わしく思えた。
逢いさえすれば、
前へ
次へ
全286ページ中200ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング