て溜息《ためいき》を吐《つ》いた。
「そんな事を言ったって、今更この商売が罷《や》められるものか」小野田は何を言っているかと云う顔をして、呟いた。
 職人はやっぱり深く自分のことに思入っているように、それには耳も仮さなかった。
「私《あっし》は早晩洋服屋って商売は駄目になると思うね。羅紗《らしゃ》屋と裁縫師、その間に洋服屋なんて云う商人とも職工ともつかぬ、不思議な商売の成立《なりたち》を許さない時期が、今にきっと来ると思いますね」
 職人は興奮したような調子で言った。
「どうしてさ」お島は目元に笑って、「この人はまた妙なことを言出したよ」
「だってそうでしょう」職人は誰にもそれが解らないのが不思議のように熱心に、「だからお客は莫迦《ばか》に高いものを着せられて、職人はお店《たな》のために働くということになる。その癖洋服屋は資本が寝ますから、小い店はとても成立って行きやしませんや。これはどうしたって、お客が直接地を買って、裁縫師に仕立を頼むってことにしなくちゃ嘘《うそ》です」
「ふむ」とお島は首を傾《かし》げて聴惚《ききほ》れていた。今まで莫迦にしていたこの男が、何か耳新しい特殊な智識を
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