持っている悧巧《りこう》者のように思えて来た。
「君は職人だから、自分の都合のいいように考えるんだけれど、実地にはそうは行かないよ」小野田は冷笑《あざわら》った。
「だがこの人は莫迦じゃないね。何だか今に出世をしそうだよ」
お島はそう言って、神棚から取おろした札束の中から、十円札を一枚持出すと、威勢よく表へ飛出して行った。
「おい、ちょっと己にもう一度見せろよ」小野田はそう言って、札を両手に引張りながら、物欲しそうな目を※[#「※」は「目+爭」、第3水準1−88−85、141−10]《みは》った。
「好い気になって余りぱっぱと使うなよ」
お島が方々札びらを切って、註文して来た酒や天麩羅《てんぷら》で、男達はやがて飲《のみ》はじめた。
七十六
そんな噂《うわさ》がいつか町内へ拡がったところから、縁起を祝うために、鈴木組と云う近所の請負師の親分の家で出た註文を、不意に受けたのが縁で、その男の引立で、家が遽《にわか》に景気づいて来た。
月島で幅を利《きか》していたその請負師の家へ、お島は新調の著物《きもの》などを着込んで、註文を聞きに行った。寒い雨の降る日で、茶《ちゃ》
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