ついた。山門の上には馬鹿囃《ばかばやし》の音が聞えて、境内にも雑多の店が居並んでいた。お島は久しく見たこともないような、かりん糖や太白飴《たいはくあめ》の店などを眺《なが》めながら本堂の方へあがって行ったが、何処《どこ》も彼処《かしこ》も在郷くさいものばかりなのを、心寂しく思った。お島は母に媚びるためにお守札や災難除のお札などを、こてこて受けることを怠らなかった。
 そこを出てから、お島は野広い境内を、其方《そっち》こっち歩いてみたが、所々に海獣の見せものや、田舎《いなか》廻りの手品師などがいるばかりで、一緒に来た美しい人達の姿もみえなかった。お島は隙《ひま》を潰《つぶ》すために、若い桜の植えつけられた荒れた貧しい遊園地から、墓場までまわって見た。田舎爺《いなかじじい》の加持《かじ》のお水を頂いて飲んでいるところだの、蝋燭《ろうそく》のあがった多くの大師の像のある処の前に彳《たたず》んでみたりした。木立の中には、海軍服を着た痩猿《やせざる》の綱渡《つなわたり》などが、多くの人を集めていた。お島はそこにも暫《しばら》く立とうとしたが、焦立《いらだ》つような気分が、長く足を止《とど》めさせ
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