。お島はどうかすると、蟇口を開けて、銭を投げつつ急いで通過《とおりす》ぎた。
七
曲がりくねった野道を、人の影について辿《たど》って行くと、旋《やが》て大師道へ出て来た。お島はぞろぞろ往来《ゆきき》している人や俥《くるま》の群に交って歩いていったが、本所《ほんじょ》や浅草辺の場末から出て来たらしい男女のなかには、美しく装った令嬢や、意気な内儀《かみ》さんも偶《たま》には目についた。金縁《きんぶち》眼鏡をかけて、細巻《ほそまき》を用意した男もあった。独法師《ひとりぼっち》のお島は、草履や下駄にはねあがる砂埃《すなぼこり》のなかを、人なつかしいような可憐《いじら》しい心持で、ぱっぱと蓮葉《はすは》に足を運んでいた。ほてる脛《はぎ》に絡《まつ》わる長襦袢《ながじゅばん》の、ぽっとりした膚触《はだざわり》が、気持が好かった。今別れて来た養母や青柳のことは直《じき》に忘れていた。
大師前には、色々の店が軒を並べていた。張子の虎《とら》や起きあがり法師を売っていたり、おこしやぶっ切り[#「ぶっ」に傍点]飴《あめ》を鬻《ひさ》いでいたりした。蠑螺《さざえ》や蛤《はまぐり》なども目に
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