査の影を見て怕《おそ》れおののいていた。そしてどんな事があっても、一切|日《ひ》の面《おもて》へ出ることなしに、家にばかり閉籠《とじこも》っていた。彼は救われたお島のために、家のなかではどんな用事にも働いたが、昼間外へ出ることとなると、釦《ボタン》一つ買いにすら行けなかった。点呼にも彼は居所を晦《くら》ましていて出て行く機会を失った。それが一層彼の心を萎縮《いしゅく》させた。
今朝も彼は朝飯のとき、奥での夫婦の争いを、蒲団《ふとん》のなかで聴いていながら、臆病な神経を戦《わなな》かせていた。最初その争いは多分夫婦間独自の衝突であったらしく思えたが、この頃の行詰った生活問題にも繋《つなが》っていた。
「私はこうみえても動物じゃないんだよ。そうそう外も内も勤めきれんからね」
お島はこの頃よく口にするお株を、また初めていた。
誰があの職人を今まで引留めておいたかと言うことが、二人の争いとなった。
「お前さんさえ働けば、家なんざ小僧だけで沢山なんだ」飽っぽいようなお島が言出していた。どんな事があっても、三人でこの店を守立ててみせると力んでいた彼女が、どんな不人情な心を持っているかとさえ疑
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