かけて、それでもお島が二着三着と受けて来た仕事に、多少の景気を添えていたその店も、七、八、九の三月にわたっては、金にならない直しものが偶《たま》に出るくらいで、ミシンの廻転が幾どもばったり止ってしまった。
 最初お島が仲間うちの店から借りて来たサンプルを持って、註文を引出しに行ったのは、生家《さと》の居周《いまわり》にある昔からの知合の家などであったが、受けて来る仕事は、大抵|詰襟《つめえり》の労働服か、自転車乗の半窄袴《はんズボン》ぐらいのものであった。それでもお島の試された如才ない調子が、そんな仕事に適していることを証《あか》すに十分であった。
 サンプルをさげて出歩いていると、男のなかに交《まざ》って、地《じ》を取決めたり、値段の掛引をしたり、尺を取ったりするあいだ、お島は自分の浸っているこの頃の苦しい生活を忘れて、浮々した調子で、笑談《じょうだん》やお世辞が何の苦もなく言えるのが、待設けない彼女の興味をそそった。
 煙突の多い王子のある会社などでは、応接室《おうせつま》へ多勢集って来て、面白そうに彼女の周囲《まわり》を取捲《とりま》いたりした。
「もし好かったら、どしどし註文を
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