ていた。
「何だ、そんな顔をして。だから己《おれ》が言うじゃないか、どんな商売だって、一年や二年で物になる気遣はないんだから、家のことはかまわないで、お前はお前で働けばいいと」
 小野田はそこへ胡坐《あぐら》をくむと、袂《たもと》から莨《たばこ》を出してふかしはじめた。
「被服の下請なんか、割があわないからもう断然止めだ。そして明朝《あした》から註文取におあるきなさい」
 お島は「ふむ」と鼻であしらっていたが、女の註文取という小野田の思いつきに、心が動かずにはいなかった。
「そしてお前には外で活動してもらって、己は内をやる。そうしたら或は成立って行くかも知れない」
「こんな身装《なり》で、外へなんか出られるもんか」お島ははねつけていたが、誰もしたことのないその仕事が、何よりも先ず自分には愉快そうに思えた。
 帰るときには、お島のいらいらした感情が、すっかり和《なだ》められていた。そして明日《あした》から又初めての仕事に働くと云うことが、何かなし彼女の矜《ほこり》を唆《そそ》った。
「こうしてはいられない」
 彼女の心にはまた新しい弾力が与えられた。

     七十一

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