お島さんだってそのままにしておきゃしない」
彼は今でもお島をT――市《まち》の方へつれていって、そこで何等かの水商売をさせて、囲っておく気でいるらしかった。
「今更あの山のなかへなぞ行って暮せるもんですか。お妾さんなんか厭なこった」お島はそう言って笑って別れたのであった。
男は少しばかりの小遣《こづかい》をくれて、停車場《ステーション》まで送ってくれた女に、冬にはまた出て来る機会のあることを約束して、立っていった。
東京で思いがけなく男に逢えたお島は、二三日の放肆《ほしいまま》な遊びに疲れた頭脳《あたま》に、浜屋のことと、若い裁縫師のこととを、一緒に考えながら、ぼんやり停車場を出て来た。
六十四
「どうです、こんな仕事を少し助《す》けてくれられないでしょうか」と、小野田がそう言って、持って来てくれた仕事は、これから寒さに向って来る戦地の軍隊に着せるような物ばかりであった。
それまで仕売物ばかり拵《こしら》えている或工場に働いていた小野田は、そんな仕事が仲間の手に溢《あふ》れるようになってから、それを請負《うけお》うことになった工場の註文を自分にも仕上げ、方々人にも
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