た。
お花という連《つれ》のある時はそうでもなかったが、自分一人のおりには、お島は大人同志からは、全然《まるで》除《の》けものにされていなければならなかった。
「じゃね、小父《おじ》さんと阿母《おっか》さんは、此処《ここ》で一服しているからね。お前は目がわるいんだから能《よ》くお詣《まい》りをしておいで。ゆっくりで可《い》いよ。阿母さんたちはどうせ遊びに来たんだからね。小父さんも折角来たもんだから、お酒の一口も飲まなければ満《つま》らないだろうし、阿母さんだって偶に出るんだからね」
おとらはそう言って、博多《はかた》と琥珀《こはく》の昼夜帯の間から紙入を取出すと、多分のお賽銭《さいせん》をお島の小さい蟇口《がまぐち》に入れてくれた。そこは大師から一里も手前にある、ある町の料理屋であった。二人はその奥の、母屋《おもや》から橋がかりになっている新築の座敷の方へ落着いてからお島を出してやった。
それは丁度|初夏《はつなつ》頃の陽気で、肥ったお島は長い野道を歩いて、脊筋《せすじ》が汗ばんでいた。顔にも汗がにじんで、白粉《おしろい》の剥《は》げかかったのを、懐中から鏡を取出して、直したりし
前へ
次へ
全286ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング