りゃしない。困って酌婦でもしていると思ってたでしょう。これでも町じゃ私も信用があったからね、土地に居つくつもりなら、商売の金主《きんしゅ》をしてくれる人もあったのさ」
「へえ、そんな人がついたの」

     六十二

 山の夢に浸っているようなお島は、直に邪慳《じゃけん》な母親のために刺戟《しげき》されずにはいなかった。以前から善く聴きなれている「業突張《ごうつくばり》」とか「穀潰《ごくつぶ》し」とかいうような辞《ことば》が、彼女のただれた心の創《きず》のうえに、また新しい痛みを与えた。
 お島が下谷《したや》の方に独身で暮している、父親の従姉《いとこ》にあたる伯母のところに、暫く体をあずけることになったのは、その夏も、もう盆過ぎであった。素《もと》は或由緒のある剣客の思いものであったその伯母は、時代がかわってから、さる宮家の御者《ぎょしゃ》などに取立られていた良人《おっと》が、悪い酒癖《しゅへき》のために職を罷《や》められて間もなく死んでしまった後は、一人の娘とともに、少《すこし》ばかり習いこんであった三味線を、近所の娘達に教えなどして暮していたが、今は商売をしている娘の時々の仕送
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