心の寄りつき場をでも見つけたように、いきなりその子供を膝《ひざ》に抱取った。
「寅坊《とらぼう》、このおばちゃんを覚えているかい。お前を可愛がったおばちゃんだよ」
 羊羹の片《きれ》を持たされた子供は、直《じき》にお島に懐《なつ》いた。
「何て色が黒くなったんだろう」姉はお島の山やけのした顔を眺めながら、可笑《おかし》そうに言った。お島の様子の田舎じみて来たことが、鈍い姉にも住んでいた町のさまを想像させずにはおかなかった。
「一口に田舎々々と非《くさ》すけれど、それあ好いところだよ」お島はわざと元気らしい調子で言出した。
「だって山のなかで、為方《しかた》のないところだというじゃないか」
「私もそう思って行ったんだけれど、住んでみると大違いさ。温泉もあるし、町は綺麗だし、人間は親切だし、王子あたりじゃとても見られないような料理屋もあれば、芸者屋もありますよ。それこそ一度姉さんたちをつれていって見せたいようだよ」
「島ちゃんは、あっちで、なにかできたっていうじゃないか。だからその土地が好くなったのさ」
「嘘ですよ」お島は鼻で笑って、「こっちじゃ私のことを何とこそ言ってるか知れたもんじゃあ
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