けながら、山を降りて来る二人の姿がふと映った。お島は可恥《はずか》しさに体が慄然《ぞっ》と立悚《たちすく》むようであった。
 お島は二人の間に挟《はさ》まれて、やがて細い崖道を降りて行ったが、目が時々涙に曇って、足下《あしもと》が見えなくなった。
 父親に引立てられて、お島が車に乗って、山間のこの温泉場を離れたのは、もう十時頃であった。石高な道に、車輪の音が高く響いて、長いあいだ耳についていた町の流れが、高原の平地へ出て来るにつれて、次第に遠ざかって行った。
 夏時に氾濫《はんらん》する水の迹の凄いような河原を渉《わた》ると、しばらく忘れていたS――町のさまが、直《じき》にお島の目に入って来た。見覚えのある場末の鍛冶屋《かじや》や桶屋《おけや》が、二三月前の自分の生活を懐かしく想出させた。軒の低い家のなかには、そっちこっちに白い繭《まゆ》の盛《も》られてあるのが目についた。諸方から入込んでいる繭買いの姿が、めっきり夏めいて来た町に、景気をつけていた。
 お島は浜屋で父親に昼飯の給仕をすると、碌々《ろくろく》男と口を利くひまもなく、直《じき》に停車場《ステーション》の方へ向ったが、主人も
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