の山のなかへ、ぐんぐん入っていった。誰の目にも触れたくはなかった。どこか人迹《ひとあと》のたえたところで、思うさま泣いてみたいと思った。

     六十

 山の方へ入って行くお島の姿を見たという人のあるのを頼りに、方々捜しあるいた末に、或松山へ登って行った浜屋と父親との目に、猟師に追詰められた兎か何《なん》ぞのように、山裾の谿川《たにがわ》の岸の草原に跪坐《しゃが》んでいる、彼女の姿の発見されたのは、それから大分たってからであった。
 赤い山躑躅《やまつつじ》などの咲いた、その崖《がけ》の下には、迅《はや》い水の瀬が、ごろごろ転がっている石や岩に砕けて、水沫《しぶき》を散《ちら》しながら流れていた。危い丸木橋が両側の巌鼻《いわはな》に架渡《かけわた》されてあった。お島はどこか自分の死を想像させるような場所を覗《のぞ》いてみたいような、悪戯《いたずら》な誘惑に唆《そそ》られて、そこへ降りて行ったのであったが、流れの音や、四下《あたり》の静《しずけ》さが、次第に牾《もどか》しいような彼女の心をなだめて行った。
 人の声がしたので、跳《はね》あがるように身を起したお島の目に、松の枝葉を分
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