した。
廊下をうろうろしていたお島の姿が、やがて浴場の方に現われた。
お島は目に一杯涙をためて、鏡の前に立っていたが、硝子戸《ガラスど》をすかしてみると、今起きて出たばかりの男の白い顔が、湯気のもやもやした広い浴槽のなかに見られた。
「弱っちまうね、御父さんの頑固《がんこ》にも……」お島はそこへ顔を出して、溜息を吐《つ》いた。
「何といったって駄目だもの」
どうしようと云う話もきまらずに、そこに二人は暫《しばら》く立話をしていたが、するうち※[#「※」は、「日」の下に、「咎」の「人」を「卜」に替えたものを置いた形、第3水準1−85−32に包摂、111−8]《とき》が段々移っていった。
浜屋が湯からあがった時分には、お島の姿はもう家のどの部屋にも見られなかった。
町を離れて、山の方へお島は一人でふらふら登って行った。山はどこも彼処《かしこ》も咽《むせ》かえるような若葉が鬱蒼《うっそう》としていた。痩《や》せた菜花《なたね》の咲いているところがあったり、赭土《あかつち》の多い禿山《はげやま》の蔭に、瀬戸物を焼いている竈《かまど》の煙が、ほのぼのと立昇っていたりした。お島は静かなそ
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