の白壁や屋《や》の棟《むね》が目についた。勾配《こうばい》の急な町には疾《はや》い小川の流れなどが音を立てて、石高な狭い道の両側に、幾十かの人家が窮屈そうに軒を並べ合っていた。
お島の行ったところは、そこに十四五軒もある温泉宿のなかでも、古い方の家であったが、崖造《がけづくり》の新しい二階などが、蚕の揚り時などに遊びに来る、居周《いまわり》の人達を迎えるために、地下室の形を備えている味噌蔵の上に建出されてあったりした。庭にはもう苧環《おだまき》が葉を繁《しげ》らせ、夏雪草が日に熔《と》けそうな淡紅色の花をつけていた。
雪の深い冬の間、閉《たて》きってあったような、その新建《しんだち》の二階の板戸を開けると、直ぐ目の前にみえる山の傾斜面に拓《ひら》いた畑には、麦が青々と伸びて、蔵の瓦屋根《かわらやね》のうえに、小禽《ことり》が怡《うれ》しげな声をたてて啼《な》いていた。山国の深さを思わせるような朝雲が、見あげる山の松の梢《こずえ》ごしに奇《く》しく眺められた。
繭時《まゆどき》にはまだ少し間のあるこの温泉場には、近郷の百姓や附近の町の人の姿が偶《たま》に見られるきりであった。お島は
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