も決らずに、話がぐずぐずになる事が多かった。
「御父さんは、私が酌婦にでもなっているものと思っているのでしょう」
お島はそうも言って笑った。
一緒に東京へ出る相談などが、二人のあいだに持上ったが、何もする事のない男は、そこまで盲目には成りきれなかった。市《まち》へお島を私《そっ》と住わしておこうと云う相談も出たが、精米所の補助を受けて、かつかつ遣っている浜屋の生計向《くらしむき》では、それも出来ない相談であった。
一里半ほど東に当っている谿川《たにがわ》で、水力電気を起すための、測量師や工夫の幾組かが東京からやって来たり、山から降りて来たりする頃には、二人のなかを、誰も異《あや》しまなかった。月はもう五月に入りかけていた。
五十六
嫁の生家《さと》や近所への聞えを憚《はばか》るところから、主婦《おかみ》の取計いで、お島がそれとなく、浜屋といくらか縁続きになっている山の或温泉宿へやられたのは、その月の末頃であった。
S――町の垠《はずれ》を流れている川を溯《さかのぼ》って、重なり合った幾箇《いくつ》かの山裾《やますそ》を辿《たど》って行くと、直《じき》にその温泉場
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