て、こんな処に働いている自分の姿が可憐《いじら》しく思えてならなかった。
お島は湯をぬくために、冷い三和土《たたき》へおりて行った。目が涙に曇って、そこに溢《あふ》れ流れている噴井《ふきい》の水もみえなかった。他人の中に育ってきたお蔭で、誰にも痒《かゆ》いところへ手の達《とど》くように気を使うことに慣れている自分が、若主人の背《せなか》を、昨夜も流してやったことが憶出《おもいだ》された。そうした不用意の誘惑から来た男の誘惑を、弾返《はねかえ》すだけの意地が、自分になかったことが悲しまれた。
「鶴さんで懲々《こりごり》している!」
お島はその時も、溺《おぼ》れてゆく自分の成行《なりゆき》に不安を感じた。
お島は力ない手を、浴槽《よくそう》の縁《ふち》につかまったまま、流《なが》れ減《た》っていく湯を、うっとり眺めていた。ごぼごぼと云う音を立てて、湯は流れおちていった。
橋をわたって、裏の庫《くら》の方へゆく、主人の筒袖《つつそで》を着た物腰の細《ほっそ》りした姿が、硝子戸ごしにちらと見られた。お島は今朝から、まだ一度もこの主人の顔を見なかった。親しみのないような皮膚の蒼白《あおじ
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